バスケットボールはダッシュやジャンプ、急な切り替えしなど、成長期の身体にとって負担の大きい動作が続くスポーツです。
実際、膝やすねの痛み、オスグッドや疲労骨折といったケガに悩む子どもは少なくありません。
ミニバスの体験に来られる保護者の方からも、
「うちの子は運動神経が良くないのですが大丈夫でしょうか?すぐ怪我するんじゃないかと心配で・・・」
という不安の声をよく耳にします。
その不安を強くしてしまう原因のひとつが、間違ったシューズ選びです。
普段履きの上履きや合っていないバッシュでプレーすると、クッション性が足りずに衝撃が直接膝や足に伝わり、ケガのリスクが高まります。
ある研究では、
「選択するシューズのクッション性や構造によって着地の衝撃が大きく変わる」
ことが示されています。
つまり、正しくバッシュを選べるかどうかで、お子さんのケガを防げるか、バスケットを健康に続けられるかが大きく変わる可能性があります。
本記事では、
- これからお子さんがバスケットを始める保護者の方
- 保護者から相談を受ける立場のコーチやチーム代表者
に向けて、正しいバッシュの選び方・サイズ合わせの方法を具体的にお伝えします。
バッシュとスニーカーは何が違う?
「初心者のうちは学校で履いている上履きでも大丈夫でしょうか?」
入団を決めた保護者の方(バスケット未経験)から、こんな質問を受けたことがあります。
これの答えは「NO」です。
バスケット経験のある方であればご存知かと思いますが、日常生活で使用する上履きとバッシュでは機能性が全く違います。
しかし、
「どこがどう違うんですか?」と質問されて、誰もが納得するように答えられる方はどのくらいいるでしょうか。
- クッション性がいい
- 安定感が違う
- グリップ力が違う
- 見た目がかっこいい
こうした違いはありますが、どれも抽象的で、初心者の方が納得できる理由にはなりません。
筆者は理学療法士として医療現場で10年以上、身体の負担を考える仕事を続け、またミニバスコーチとしてコート上の選手の安全を守り続けています。
ここからは、バッシュの具体的な機能と、普通の上履きとの違いをわかりやすく解説します
クッション性の違いにより、足にかかる負担が変化する事を示した研究
はじめに、同じバッシュでも物によって機能は異なり、足にかかる負担が変わる事を示した研究を紹介します。
要約した内容をお伝えしますが、詳しく確認したい方は以下のリンクから原文を見る事が出来ます。
↓↓
参考にした研究は以下の通り
タイトル
「Kinetics and perception of basketball landing in various heights and footwear cushioning」
(Wei et al., 2018, PLOS ONE)
(さまざまな高さとシューズのクッション性におけるバスケットボール着地の運動学的特徴と知覚)
研究では、大学のバスケットボール選手19人に協力してもらい、
- 低めの台(45cm) と 高めの台(61cm) からジャンプして着地する
- クッション性の違う3種類のシューズ(普通、良い、最高)を履く
という条件で着地動作を調べました。
そのときに
- すねの揺れの強さ(加速度計)
- 地面を踏んだときの力の大きさ(フォースプレート)
- 膝の動き方(モーションキャプチャ)
を測定しました。
さらに、「履き心地(踵のクッションの快適さ)」を選手に評価してもらいました。
研究結果のまとめ
- 高い位置から着地すると、すねや膝にかかる衝撃は大きくなる。
- クッション性の低い(硬めの)シューズでは衝撃が大きく、疲労骨折などのリスクが高まる。
- クッション性能はミッドソールの硬さだけでは決まらず、厚さ・素材の特性・構造 も影響する。
- 「踵の突き上げ感が少ないか」などの主観的な快適性チェックは、実際に衝撃の大きさとある程度関連している。
クッション性・機能性は何で変わる??
研究で示されたように、シューズのクッション性はケガ予防に直結します。
では、その「クッション性」は一体どこで決まるのでしょうか?
研究チームが最も最初に挙げたのは「ミッドソールの硬さ」とありました。
※ミッドソールとはどこかは後述します。
しかし、ミッドソールだけが重要ではないとも強調しており、研究の内容をみただけでは
「結局どうやって選べばいいの?」
となってしまいます。
ここからは、保護者の方でもチェックできるバッシュの構造のポイント・クッション性を左右する機能の違いについてを解説していきます。
踵のホールドがしっかりしている
バッシュに限らず、靴が安定するためには踵が安定している事は非常に重要です。
踵の骨である”踵骨”は足全体の安定性を決めると言っても過言ではありません。

足の親指が浮く方向に足が動く事を、踵骨(距骨下関節)が回外すると表現します。
反対に、足の小指が浮く方向に足が動く事を、踵骨が回内すると表現します。
この踵骨の動きは足の安定性や柔軟性を決める要石になります。
踵骨が少しだけ回外している時は、足は硬く安定した構造に変化します。(蹴りだし、ジャンプする際に有利)
踵骨が少しだけ回内している時は、足は柔らかく柔軟な構造に変化します。(ストップ、ジャンプの着地時に有利)
“少しだけ”と記載したのには理由があります。
踵骨が過度に回外すると捻挫をするリスクが増大します。
踵骨が過度に回内すると、偏平足障害を始めとした様々な足部の障害、膝の怪我(前十字靭帯損傷など)を引き起こします。
つまり、踵がしっかりして過度に回外・回内しない事は障害予防に大切です。
踵の強度は靴によってかなり違います。
下の写真のように踵を指で挟むように圧迫して硬さを確認して下さい。
強度の弱い靴はしわが寄って凹みます。

良い靴には通常「月形しん」と呼ばれる素材が埋め込まれています。
筆者が調べた限り、一般的な上履きはこの踵が柔らかいものが普通に店頭に並んでいます。
学校で使用する上履きや、屋外でメインで使用する靴は、バッシュよりも長い時間履くことになるはずです。
足の形をしっかり整える、普段から足の疲労をためないようにするためには普段使いの上靴選びも大事になります。

踵の安定性が障害予防につながります。
よく「踵をふむな!」と言われるのは、
単に行儀が悪いからではないんですね。
ミッドソール部分のクッションが違う
バッシュの各部の名称は以下の写真のように分かれています。


アッパーとは写真で示している部位で布により甲を抑えている部分です。
アウトソールは地面と接するゴムの部分です。
アッパーとアウトソールの中間に位置する層がミッドソールと呼ばれる部分です。
研究の内容にも出てきたクッション性を左右する重要な部分です。
バッシュはこのミッドソールが高機能に作られている場合が多く、代表的なのはNIKEのZoom Airではないでしょうか?
Zoom Airは以下の写真のようにミッドソール部分にエアポッドが作成され、中に加圧された空気が密閉されています。


この空気がジャンプや急激なストップの衝撃を吸収してくれる鍵になります。
Zoom Airのように見た目でわかるようになっているものだけでなく、各社で様々な工夫がなされています。
詳細は省きますが、以下が各メーカーの代表的なミッドソール素材です。
メーカーの代表的技術 | |
ナイキ | Zoom Air(ズームエアー) |
アシックス | GEL(ゲル) |
アディダス | BOOST FOAM(ブーストフォーム) |
アンダーアーマー | FLOW(フロー) |



各メーカーの努力が、バスケット選手の
激しい運動量を支えているんですね。
シャンクにより足底腱膜(そくていけんまく)を補助
“シャンク”とは靴の強度を高めるために足底部に埋め込まれた硬い素材(鋼鉄・樹脂など)の事を指します。
(下のイラストのようなイメージ)


シャンクは足底を支える重要な役割を持ちます。
人の足底には”足底腱膜(そくていけんまく)”と言われる組織が存在します。


足底腱膜は足部にかかる衝撃を吸収する重要な組織です。
シャンクはこの足底腱膜の役割をサポートします。
大事な役割を担うシャンクですが、安価な靴には使われていない事があるそうです。
シャンクは靴底のアウトソール(靴底のゴムの部分)に覆われているため、見た目ではシャンクの有無は分かりません。
しかし、簡単に調べる方法があり、靴を捻ってみるとすぐに分かります。


シャンクのある靴は軽い力では捻れませんが、シャンクがない場合は捻れてしまいます。
バスケットはジャンプが多い競技であるため、足底腱膜による衝撃吸収はとても大切です。



シャンクがない上靴でプレーすると大きな衝撃がかかります。
偏平足を助長する。足の障害を発生する原因になりますね。
ちなみに、この衝撃吸収作用を”トラス機構”といいます。


かかる衝撃に合わせて適切にアーチがたわむ(足底腱膜が伸びる)事により、衝撃を吸収します。
前足部が適切な位置で曲がる
シャンクの話にも登場した足底腱膜は衝撃吸収だけではなく、蹴り出しにも重要です。
前足部が適切な位置で曲がる靴は”ウインドラス機構”が適切に働き、蹴りだしを強く行う事が出来ます。


ウインドラス機構は足の指(足趾)が反る事で足底腱膜が巻き上がるように緊張し、足部が固定される作用の事です。
足部が固定される事で地面を強く蹴る事が出来ます。


上記左の靴(バッシュ)は適切な位置でしっかり曲がっています。
上記右の靴も前足部で曲がってはいますが、後方の部分まで一緒に曲がってしまっています。
中敷きが取り外し可能
後で詳しく解説しますが、靴のサイズを正確に測るためには中敷きを取り外す必要があります。
靴によっては中敷が取り外せないようになっている靴があります。
中敷きを取り外せないと
・本当に正しいサイズ、足に合っている靴を選べているかを判断できない。
・自分の足に合わせた中敷きに交換出来ない。
などのデメリットが生まれます。
特に偏平足のお子さんは要注意。
足のアーチが完成する年齢は思っている以上に早く、7~9歳でほぼ完成すると言われています。
バスケットを始める時にすでにこの年齢に達し、偏平足である場合は、最初から偏平足をサポート出来る中敷きを入れておく事をおすすめします。
筆者が知る限り、使い勝手の良い中敷きを以下にご紹介します。
↓↓




扁平足だと、どんなデメリットがあるのか?どんな対策が必要なのかをまとめた記事もあります。
偏平足が心配な方は以下のリンクからチェックしてみて下さい。
↓↓
>>足のアーチはなぜ必要?扁平足だとバスケットにどう影響?怪我は?


サイズの合わせ方
同じサイズでもメーカーによって微妙に大きさは異なります。
ほとんどの方は実店舗で試し履きをすると思いますが、どんな事をチェックしていますでしょうか?
・つま先があたっていないか?又は、あまり過ぎていないか?
・重く感じないかどうか?
・動いた時の感じはどうか?
そんな事をチェックすると思いますが正しい知識を持って実施出来ている方はおそらく少数だと思います。
ポイントは「中敷きをとって合わせること」。


写真のように中敷きを取り出して、踵をしっかり合わせます。
中敷きの先端と一番長い指(人によって実は異なります。)が5mm〜10mmの範囲に収まっているかをチェックして下さい。
5mm以下であれば、小さすぎる。10mm以上であれば大きすぎる。と判断します。
※写真の例はやや小さいと判断できます。
また、つま先だけでなく、横幅がはみ出していないと事も確認する必要があります。


以上の写真のように、つま先は収まっているのに、横幅が収まっていない事があります。
こういった靴は「足にあっていない靴」と判断します。
この問題は中敷きをとり出さないとわからない事が多く、見逃されやすい問題です。
各メーカーの特徴
ここまで紹介したように、バッシュには足を守るための様々な機能が組み込まれています。
ただし、同じ「バッシュ」といってもメーカーごとに重視しているポイントや特徴は異なります。
以下で、代表的なメーカーの特徴を簡単に整理しましたので参考にしてみて下さい。
各メーカーの特徴 | |
ナイキ | Zoom Airをはじめとしたクッション技術により反発性と快適性を両立 デザイン性の高さも◎ |
アシックス | 日本人向けの足型設計で、フィット感が良い。 GEL(ゲル)により衝撃吸収力が高い 耐久性が高く、壊れづらい。 |
アディダス | 柔らかく反発力のあるクッションが強み フィット感がよく横の動きがしやすい |
アンダーアーマー | 軽量でグリップ力が高い スピードを求める選手におすすめ |
初心者におすすめのバッシュ3選
上述したようにメーカーによって様々な特徴がありますが、筆者が最もおすすめしたいメーカーはアシックスです。
日本人に合いやすいように設計され、かつシンプルなデザインのためチームカラーともマッチしやすい商品を多く取り扱っているメーカーで、初心者には特におすすめです。
アシックスの商品の中でも、特におすすめのシリーズを3つに絞って紹介します。
エントリーシューズにおすすめ”DUNKSHOT”
始めてプレーする方におすすめしたいのはDUNKSHOTシリーズです。
エントリーシューズ(初心者用)としてミニバス連盟も推奨している商品だそうで、柔らかく、履きやすいバッシュです。
また、店頭でも安く売られる事が非常に多く、筆者の息子はミニバスを始めて以来、3足このシリーズを使用しました。


このシリーズの注意点はアシックスの特徴であるGEL(ゲル)がミッドソールに使用されていないそうで、クッション性は以下で紹介するシリーズには劣ります。
高学年になり、身長・体重が伸びている時期の選手にはやや負担が大きくなる可能性があります。
また、あくまでも初心者向けのエントリーモデルで軽量性を重視しているため、グリップが効きづらい(滑りやすい)というデメリットもあります。
アシックスのNO.1売れ筋商品”GELHOOP”
プレーに慣れてきた選手に次におすすめしたいシューズが”GELHOOP”です。
フィット性と軽量を重視された人気シリーズで、商品名にある通りGELが搭載されています。
アウトソールにもDUNKSHOTに比べてグリップ力が高い商品になっています。
スピード・俊敏性を求めるガード・フォワード選手におすすめしたい商品です。
アシックスの代表シリーズ”GELBURST”
GELHOOPは軽量で、スピードを求めるポジションの選手におすすめしたい商品でした。
グリップ性、サポート性の高さからどのポジションの選手にもおすすめ出来るバッシュがアシックスを代表するシリーズである”GELBURST”シリーズです。
まとめ
バッシュは「ただの運動靴」ではありません。普段の上履きやスニーカーとは構造が大きく違い、ジャンプやダッシュなど激しい動きから足や膝を守るために作られています。
特に大切なのは、
- 踵の安定性(ぐらつかないかどうか)
- ミッドソールのクッション性(衝撃をどれだけ吸収できるか)
- シャンクの有無(足のアーチを支えられるか)
- 前足部の曲がりやすさ(正しい位置で蹴り出せるか)
といったポイントです。これらの違いによって、同じ「バッシュ」でもケガのしやすさやプレーのしやすさは大きく変わります。
また、メーカーごとにも特徴があり、日本人の足に合いやすい設計をしているのはアシックス。その中でも特におすすめできるのは、
- DUNKSHOT(初心者に最適なエントリーモデル)
- GELHOOP(軽量・スピード重視の人気モデル)
- GELBURST(全ポジションに対応できる万能モデル)
の3シリーズです。
「まあ上履きでいいか」「ちょっと大きめを買っておこう」と安易に選んでしまうと、膝や足首を痛める原因になりかねません。
逆に、今日ご紹介したようなチェックポイントを押さえて正しく選べば、お子さんの足を守りながら、長く楽しくバスケットを続けることができます。
バッシュ選びは、お子さんの成長とバスケット人生を守る大切な一歩。ぜひこの記事を参考に、安心して使える一足を見つけてください。
本記事はバッシュの基本知識をご紹介しました。
本記事で登場した医学的な知識は以下の書籍をよりさらに詳しく確認する事ができます。
本記事でご紹介した内容だけでなく、足のケアの方法やテーピングの方法も具体的に記載されている良書だと筆者は思いますので気になった方は是非チェックしてみて下さい。
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バスケットをこれから始める方の不安が少しでも和らぎ、楽しくバスケットをプレー出来る事を応援しています。
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