「毎日たくさん練習しているのに、試合になるとシュートが入らない…」
そんな悩みを持つ中高生プレイヤーや保護者の方も多いはず。
シュートは感覚的なスキルで、「何が」確率に影響するかを知る事は難しく、指導者泣かせなスキルであると言えるでしょう。
・下半身の安定性
・上半身の筋力
・手首の柔らかさ
・目の良さ
・努力で獲得した感覚
・アーチの高さ
・綺麗なフォーム
などなど、何が影響するかは非常に難しいです。
しかし、そんな悩みを少しだけ解決する研究が近年発表されました。
ギリシャで行われたその研究では、リリースの速さはレベルの高い選手とそうでない選手では明確に差があったと結論づけました。
本記事では、研究の内容を紹介するとともに、シュート確率を向上させるポイントであるリリースの速さを獲得するポイントについても考察します。
上位リーグ・下位リーグ選手のシュートの違いを示した研究
バスケット強豪国であるギリシャのU18年代の選手を対象に行われた研究を紹介します。
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タイトル:
Comparative Analysis of 2-Point Jump Shot and Free Throw Kinematics in High- and Low-Level U18 Male Basketball Players
(18歳以下の男子バスケットボール選手における2ポイントジャンプショットとフリースローの運動学の比較分析)
著者:
Varvara Botsi, Dimitrios I. Bourdas, Antonios K. Travlos, Panteleimon Bakirtzoglou, Dimitrios C. Gofas, Ioannis E. Ktistakis, Emmanouil Zacharakis
掲載誌:
Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 2024年, 9巻, 278号
要約
背景・目的
本研究は、18歳以下男子バスケットボール選手において、競技レベル(上位リーグ vs 下位リーグ)とポジション(ガード、フォワード、センター)が、2ポイントジャンプショットとフリースローにおけるシュート精度および運動学的パラメータに与える影響を検討することを目的とした。
方法
- 上位レベル(HL群)38名、下位レベル(LL群)41名が参加。
- 選手はガード・フォワード・センターのサブグループに分類。
- リングから5.57m離れた位置から2ポイントシュートテストを実施し、その30分後にフリースローテストを実施。
- クロスオーバー、カウンターバランスのラテン方格法を用いてランダム化を行った。

結果
- HL群は、フリースローにおいてリリース時間(RT)が有意に短く(12.5%速い)、また最適角度である45°により近い進入角度(EA)を示した(8.1%近似)。
- さらに、2ポイントジャンプショットの成功率(SSR)が24.2%高かった。
- 全体としては、ジャンプショットの方がフリースローよりも高い進入角度を示したが、成功率はフリースローの方が高かった。
- ポジション間での違いは認められず、現代的なトレーニングによって一貫性が育成されている可能性が示された。
結論
これらの結果は、特に下位レベルの選手において、リリース時間・進入角度・成功率を改善するためのターゲットドリルの必要性を示唆している。コーチは、この知見を活用することで、若年選手のシュートメカニクスと一貫性を向上させ、パフォーマンスを高めることができる。将来的な研究では、疲労やディフェンス圧力がシュートに与える影響についても調査する必要がある。
詳しい研究内容を確認したい方は以下の部分から
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序論
シュートはバスケットボールにおいて最も重要なスキルの一つであり、チームの成功はフリースロー、2ポイント、3ポイントシュートの成功に大きく依存する。
その中でもジャンプショットは特に頻度が高く、総得点の40%以上を占める。
ジャンプショットは、選手がジャンプの頂点付近でボールをリリースし、正確さと飛距離を両立させる技術である。足・体幹・腕の協調動作が必要であり、相手ディフェンスや位置に応じて角度・タイミング・高さを調整できる多様性を持つ。
一方、フリースローも同様に足・体幹・腕の連動を要し、正確なリリースによって得点を狙う。どちらも幼少期からの反復練習が不可欠であり、多くのバイオメカニクス的要因が成功率に関与する。
特に「リリース角度(release angle)」と「進入角度(entry angle)」は成功に大きく影響する要因とされ、最適な進入角度は一般的に42〜48°の範囲、45°が理想値とされる。
また「リリース時間(release time, RT)」も重要で、守備に妨害されないスピードでシュートを打てるかを左右する。
しかし、これまでの研究では3ポイントシュートに関する報告が多く、2ポイントシュートやフリースローにおけるリリース角度・進入角度・RT・成功率の比較研究はほとんど存在しない。
したがって本研究は、U18男子バスケットボール選手を対象に、上位リーグと下位リーグ、さらにポジション別の違いを分析し、シュートの精度と運動学的特性を明らかにすることを目的とした。
方法
対象者: ギリシャ・アッティカ地域の16〜18歳男子選手79名(上位リーグ38名、下位リーグ41名)。
条件: 1日60分以上の中高強度運動習慣、過去6か月間怪我なし、バスケ歴5年以上、喫煙・飲酒・薬物治療なし。
測定: 身長、体重、BMI、握力、成熟度指標、経験年数、練習時間を記録。
手続き:
初回訪問で測定と説明。
2回目訪問で「2ポイントジャンプショットテスト」と「フリースローテスト」を実施。
ラテン方格法によるクロスオーバーデザインでランダム化。
実験条件:室温24〜25℃、湿度50%、午前中に実施。
機材: センサー内蔵ボール(94Fifty)、パス供給機(Dr. Dish CT+)、GoProカメラ。
2ポイントジャンプショットテスト
5.57mの距離からコート5か所(両コーナー、両ウィング、トップ)で各5本、計25本を実施。
制限時間150秒。
フリースローテスト
フリースローラインから5本連続でシュート。
制限時間30秒。
測定項目
リリース時間(RT)
進入角度(EA)
成功数(SS)
成功率(SSR)
心拍数(HR)、主観的運動強度(RPE)
統計解析
ANOVA、t検定、ANCOVAを用いて比較。
有意水準は p ≤ 0.05。
結果
**上位群(HL)**は下位群(LL)と比べ、
フリースローRTが12.5%短い
フリースローEAが理想値45°に8.1%近い
2ポイントジャンプショットSSRが24.2%高い
すべての群で「ジャンプショットのEA > フリースローのEA」だったが、成功率はフリースローの方が高かった。
ポジション間の有意差はなし。
HRやRPEも群間差なし。
考察
上位群は「より速いリリース」「より理想に近い進入角度」「高い2ポイント成功率」を示した。
これは指導や経験の差による可能性が高い。
一方、ポジション間の差はなく、現代バスケにおける「ポジションレス化」と基礎スキル重視の傾向が反映されている。
興味深いのは、ジャンプショットの方が高い弧を描くが、成功率はフリースローが高い点。これは、ジャンプショットは力強さにより弧が大きくなる一方、フリースローは緊張や制御の影響で弧が浅くなりやすいためと考えられる。
結論
U18男子選手において、競技レベルはシュートのリリース速度と進入角度、成功率に大きく影響する。
コーチは下位群選手に対し、
リリースを速くする練習
45°に近い弧を作る練習
実戦に近いディフェンス下でのシュート練習
を重点的に取り入れるべきである。
ポジションによる差はなく、全選手に均等なシュート練習を行うことが推奨される。
筆者の考察
この研究を読んで、改めて「リリースの速さ」がいかに重要かを感じました。
上位レベルの選手ほどリリースが速く、理想的なアーチでシュートを放っているという結果は、まさに試合で見ていて納得できるものです。
バスケットボールでリリースを速くするためには、単に腕のスナップを鍛えるだけでは不十分です。
本当に重要なのは 下半身から上半身へ力を素早く伝達する能力 です。
ジャンプショットやフリースローのリリースは、一見すると腕の動きに注目しがちですが、実際には「足で生み出した力を体幹を通じて腕に伝える」一連の動作がスピードを決めます。
ここで基礎となるのが ヒップヒンジ動作 ― いわゆる デッドリフト に代表される動きです。
デッドリフトでは、
- 股関節を軸に大きな力を素早く発揮する
- 体幹を安定させながら力を上半身に伝える
という要素を鍛えることができます。
これはまさに「床から力を生み、上半身へ瞬時に伝える」バスケットボールのシュート動作と同じ構造です。
したがって、リリースを速くしたい選手ほど、フォーム練習と並行して デッドリフトのような下半身・体幹のトレーニング を取り入れるべきです。
強い下半身と安定した体幹があれば、無駄のないスムーズな動作が可能になり、リリースのスピードは自然と向上します。
デッドリフトのトレーニングについてさらに深く理解したい方は別記事で解説していますので参考にして下さい。
↓↓
【バスケ】シュートの飛距離を王道トレーニングで伸ばす!!

また、リリースを速くするためには下半身からの力伝達が不可欠ですが、重要ななのは下半身の力だけでなく、楽に遠くに飛ばせるフォームで打つことも重要です。
実際、力の使い方を正しく学べば、体格に恵まれていない選手でも驚くほど遠くからシュートを打てるようになります。
従来とは異なる新しいシュートフォーム理論である「ナチュラルパーフェクトシュート®︎」についてをテーマにした記事では、その具体的な方法と考え方を紹介しています。
「下半身の筋力には自身があるのにシュートは飛ばない・・・」
「まだ、筋トレを積極的にできる年代じゃなくて・・」
そんな方にはフォームの改善に取り組んでいただく事をおすすめします。
↓↓
【バスケ】女子でもワンハンドが世界基準?3Pシュートの飛距離を伸ばす理論とは?

また、改めて研究結果を確認すると、
フリースロー → 上位レベル(HL)の方が下位レベル(LL)より 有意にリリースが速い
2ポイントジャンプショット → HLとLLで差はあったが 統計的に有意差は出なかった
「なぜ2ポイントシュートはリリースの速さに有意な差がなかったのか?」は疑問の残るところです。
リリースの速さが求められるのはインプレーの時です。フリースローの時ではありません。
その理由を考えてみました。
この研究ではシュート動作に入った瞬間(ディップ)からボールがリリースされる瞬間までの時間を計測されています。
つまり、動作が速くてもジャンプの高さが高く、打点の高いジャンプシュートを打つ選手は、リリース速度としては遅くなる事が予想されます。
身体能力が高く、高さでアドバンテージをとれる選手はこのようなシュートを打つ傾向にあり、この研究の上位群にもしかしたら多かった可能性があります。
一方、フリースローを打点の高いジャンプシュートで放つ選手はほとんどいません。
まとめ
バスケットボールのシュートは、どれだけ練習しても「試合になると決まらない…」と悩む選手が多いスキルです。
今回紹介したギリシャでの研究で、上位選手ほどリリースが速く、理想に近いアーチを描いていたことが明らかになりました。これは、決して才能だけの差ではなく、日々の積み重ねと工夫の成果です。
リリースの速さを手にするには、腕だけではなく、下半身から体幹へ力をスムーズに伝える動作が欠かせません。
デッドリフトなどの基礎トレーニングや、正しいフォームを身につける練習を積み重ねることで改善することができます。
「なぜ入らないのか・・・・」
と悩むその時間も、決して無駄ではありません。
挑戦し続ける姿勢こそが、必ず選手を成長させます。
選手を支える保護者やコーチの皆さんには、ぜひこの研究をヒントに、子どもたちが自信を持ってシュートを打てるようサポートしていただきたいと思います。
バスケットに懸けるその情熱は、きっとリングを通して報われます。
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