「この子は1Qで出した方がいいかな? それとも2Qで落ち着いてから?」
ミニバスの試合で、スタートメンバーの組み合わせや出すタイミングに悩んだ経験、ミニバスコーチならきっとありますよね。
アップで調子が上がる子もいれば、逆にアップしすぎて疲れてしまう子もいる。
「今日は動きが重いな」「あの子、最初は良かったんだけどな・・」と感じることもあるはず。
実はその違い、気合いやメンタルではなく“体の反応の違い(生理的な個人差)”が関係しているかもしれません。
2024年にギリシャの研究チーム(Papagiannisら)は、
試合前ウォームアップが「心拍数・柔軟性・スプリント・ジャンプ力」に与える影響を詳しく調べ、
その結果――
「ウォームアップの効果は人によって全く違う」ことが科学的に示されました。
この記事では、その研究結果をもとに、
「どんなタイプの選手を1Q・2Qで起用すべきか?」を、筆者の実体験を交えながらわかりやすく解説します。
この研究を基に、どんなプレースタイル、性格の選手を1,2Qに出すべきか?を考察します。
ウォームアップ効果の“個人差”を科学で検証
本記事のもとになる研究は、ギリシャのスポーツ科学チーム(Papagiannis ら, 2024年, Sports誌掲載)が発表したものです。
原文を確認したい方は以下のリンクからどうぞ
↓↓
Individuality Affects the Efficiency of Basketball Pre-Game Warm-Up on Players’ Performance
研究の要約
ギリシャのスポーツ科学チーム(Papagiannisら, 2024)は、
20名の男子バスケットボール選手(平均年齢21歳)を対象に、
試合前のウォームアップがどのようにパフォーマンスに影響するかを分析しました。
選手たちはユーロリーグで実際に使われている30分間のウォームアップメニューを実施。
その前後で、心拍数・柔軟性・スプリント・ジャンプ力を測定したところ、
ウォームアップ直後には多くの選手で心拍数やジャンプ力が上がりました。
しかし、9〜23分後にはスプリントやジャンプ力が低下し、
その上がり方・下がり方には大きな個人差があることがわかりました。
特に、
- もともと心拍数が高い(=緊張しやすい)選手はアップの影響が小さく、
- 心拍数が低いタイプの選手ほどウォームアップによって大きく変化する傾向がありました。
また、
- 柔軟性は比較的長く維持される(時間が経っても変わりにくい)
- ダッシュ・ジャンプのパフォーマンスは時間とともに低下しやすい
ことも確認されました。
研究チームはこの結果から、
「ウォームアップはチーム全員が同じ内容で行うのではなく、
個人のタイプや試合に出るタイミングに合わせて調整すべき」
と結論づけています。
研究の内容を詳しくチェックしたい方はここをクリック
研究概要|対象と方法
この研究では、ギリシャの大学に所属する男子バスケットボール選手20名を対象に、試合前ウォームアップが身体的パフォーマンスに与える影響を調べました。平均年齢は21.1歳、平均競技歴は10年以上という競技経験豊富なアスリートです。
測定項目
- 心拍数(HR):身体の生理的反応の代表指標。
- 柔軟性(Sit & Reach Test):筋温上昇と可動域拡大の効果を確認。
- スプリント(10m走):俊敏性・スピードの変化を評価。
- 垂直跳び(CMJ with Arm Swing):瞬発力と筋出力の変化を測定。

測定タイミング
- ウォームアップ前
- ウォームアップ直後
- 9分後(短期休息)
- 23分後(長期休息)
ウォームアップの構成(合計30分)
- 有酸素運動:軽いレイアップ走やジョグ(4分)
- ストレッチ:静的+動的を組み合わせたメニュー(8分)
- ランニングドリル:スキップ・サイドステップ・ディフェンススライドなど(3分)
- バスケットボール特異的ドリル:1on1、シュート、方向転換など(14分)
- クールダウン的要素としてのフリースロー(1分)
この構成は、ユーロリーグでも実際に採用されている標準的プロトコルをもとに設計されています。
結果|「直後の効果」と「時間経過による低下」
🫀 心拍数
全員で平均 +69.8%上昇。
ただし、上昇率は22.9〜149%と非常に幅広く、初期心拍が高い選手ほど上昇率が小さいという傾向が見られました。
これは、すでに交感神経が活性化している選手ほど追加の反応が少ないことを示唆します。
| 測定時点 | 平均値(bpm) ± SD |
|---|---|
| ウォームアップ前 | 75.75 ± 14.88 |
| 直後 | 128.6 ± 16.01 |
| 9分後 | 89.8 ± 13.36 |
| 23分後 | 85.0 ± 13.73 |
➡️ ウォームアップにより全員の心拍数が上昇するが、初期心拍が高い選手ほど上昇率は低い。
🤸 柔軟性
平均 +20.1%向上。
筋温上昇によって関節可動域が広がり、筋抵抗が減少。
興味深いのは、この効果が23分後まで持続した点です。
ただし、0〜81.8%と個人差は大きく、もともと柔軟性の高い選手は変化が少なかった傾向にあります。
| 測定時点 | 平均値(cm) ± SD |
|---|---|
| ウォームアップ前 | 16.87 ± 6.83 |
| 直後 | 20.27 ± 6.31 |
| 9分後 | 20.02 ± 6.54 |
| 23分後 | 19.70 ± 6.51 |
➡️ 柔軟性はウォームアップで一時的に向上し、その効果は20分ほど維持されるが、個人差が大きいことが示された。
🏃 スプリント
平均 1.37%短縮(改善)。
しかし個人差が顕著で、ウォームアップ直後にタイムが改善する選手もいれば、逆に悪化する選手も存在。
初期値との相関は認められず、心理的な集中度や疲労感などの要素が影響した可能性があります。
| 測定時点 | 平均値(秒) ± SD |
|---|---|
| ウォームアップ前 | 1.76 ± 0.07 |
| 直後 | 1.73 ± 0.07 |
| 9分後 | 1.77 ± 0.06 |
| 23分後 | 1.78 ± 0.06 |
➡️ スプリント能力はウォームアップ直後に改善するが、その効果は約10分で消失し、選手ごとに変動が大きい。
🦵 垂直跳び(CMJ)
平均 +4.95%上昇。
瞬発力の向上が確認されたものの、9分後・23分後には低下。
特に23分後ではほぼウォームアップ前の水準に戻りました。ウォームアップの効果は一時的で、持続時間が10〜15分以内である可能性が高いといえます。
| 測定時点 | 平均値(cm) ± SD |
|---|---|
| ウォームアップ前 | 42.72 ± 5.30 |
| 直後 | 44.48 ± 5.33 |
| 9分後 | 43.43 ± 5.64 |
| 23分後 | 42.84 ± 5.64 |
➡️ 垂直跳びも一時的に改善するが、20分以内に効果が失われる。
考察|「個別最適化されたウォームアップ」が必要
研究チームは、全体的な傾向と個人差の両方を分析し、次のような重要な知見を導き出しました。
- ウォームアップの効果は選手ごとの体力・生理的特徴・心理状態によって左右される。
- 柔軟性や心拍数はほぼ全員で上昇する一方、スプリント・ジャンプは個々の反応にばらつきがある。
- 試合開始前の9〜23分間の待機時間で、心拍数・瞬発力・スピードは顕著に低下する。
これらの結果は、チーム全員に同じウォームアップを提供する従来の方法が必ずしも最適ではないことを意味します。
理想的なのは、個別データに基づいた動的なウォームアップ設計です。
選手の状態や試合時間帯、コンディションに応じて、ウォームアップの強度や休息時間を微調整することで、パフォーマンスを最大化できると考えられます。
また、心理的な準備(mental readiness)も重要です。
ウォームアップ後の心拍変動の違いには、集中度や緊張の度合いが影響している可能性があります。
したがって、身体と心を同時に“試合モード”に切り替えるプロセスを意識することが、ウォームアップの真価を引き出す鍵となります。
心拍数が重要なのはなぜ?
研究でチェックされていた項目は4項目
・心拍数
・柔軟性
・ダッシュ
・ジャンプ
柔軟性・ダッシュ・ジャンプ力がパフォーマンス発揮に直結するのは、誰でもすぐに想像できますよね。
でも「心拍数」と聞くと、ちょっとピンとこない人も多いはずです。
「心拍が上がる=ドキドキしてるだけじゃないの?」と思うかもしれません。
実はこの“ドキドキ”こそが、体を動かすためのスイッチなんです。
🐻「森で熊に出会ったら」理論
たとえばあなたが森を歩いていて、突然熊に出くわしたとします。
その瞬間、ドキッとして心臓がドクドク速く打ち始めルト思います。

これは体が「やばい、すぐに動け!」と判断して、**戦うか逃げるかモード(=交感神経ON)**に切り替わっているからです。
🫀心拍が上がると何が起こる?
- 心臓がフル稼働して、筋肉に血と酸素をたくさん送る
- 筋肉の温度が上がって、関節や筋がスムーズに動く
- 神経も活性化して、反応スピードが上がる
- アドレナリンが出て、集中力・判断力が一気に高まる
つまり、「すぐ走れる・すぐジャンプできる・すぐ反応できる」状態にります。
🏀スポーツのウォームアップは、これを“人工的に再現”してる
ウォームアップで心拍を上げるのは、
体に「熊とであったぞ。逃げる?戦う?スイッチをオンにするぞ!」と教えてあげるようなもの。
そうすると、体が「集中モード」に入り、筋肉も神経も動きが良くなります。
だから、心拍が上がる=動きやすい・反応が速くなるというわけです。
じゃあミニバスではどう考えればいい?
研究の結果をまとめると、
- 心拍数はウォームアップ後すぐに下がりやすい(時間がたつと効果が消える)
- ただし、もともと心拍が高い選手は影響を受けにくい
- 柔軟性は比較的長く維持される(時間が経っても変わりにくい)
- ダッシュ・ジャンプのパフォーマンスは時間とともに低下しやすい
この結果を踏まえて、選手起用に活かす筆者の具体的な考察は以下の通りです。
1Qから出した方が力を発揮しやすい選手
ダッシュやジャンプの速さが武器の選手(瞬発力タイプ)
→ ウォームアップ後すぐが一番力を発揮できる。
→持ち味のダッシュの速さ、ジャンプの高さが時間とともに落ちるのでアップ直後の1Qに出すのが理想。
緊張しにくい・エンジンがかかるのが遅い選手(スロースタータータイプ)
→ 心拍数が上がりにくく、体が温まるまで時間がかかるタイプ。
→ アップ直後の“体が温まっている・心拍数が上がっている1Qに出すことで、本来の動きが出やすくなる。
→ 逆にベンチで長く待つと、せっかく上がった体温や心拍数が下がってしまう可能性。
2Qから出した方が力を発揮しやすい選手
普段から心拍数が高めの選手(緊張しやすい・じっとできないタイプ)
→ すでに体が“戦闘モード”。アップを長くやると逆に疲れてしまうことも。
→ こういう選手は、短めのアップ+2Qから出場でも十分動けるケースが多い。
身長やスキル・判断力でカバーできる選手(安定タイプ)
→ 動きの爆発力よりも試合の流れを読む力が強み。
→ ジャンプ・ダッシュがベストな状態出なくてもスキルで対応できるタイプの選手は、2Qから出す形がチームバランス的にも◎。
中学生以上にも応用
この考え方を応用すると、ミニバスだけでなく、中学生・高校生以上のチーム編成やメンバー起用にも活かすことができます。
たとえば、スタートメンバーとベンチメンバーを決めるとき、単に「上手い」「安定している」だけでなく、
「ウォームアップ後どのタイミングで一番動けるか」という観点で考えることが、より理にかなった采配につながります。
【スタート向き】
- スピード・ジャンプなど身体能力で勝負するタイプの選手
→ アップ直後が最もパフォーマンスが高く、時間が経つと落ちやすい。
→ 開始直後の勢いで流れをつくる役割に最適。 - スロースタータータイプ(心拍が上がりにくい・緊張しにくい)
→ 試合前にしっかり体を温めた直後に出すと動きやすい。
→ ベンチで待たせると体温や集中が下がる傾向。
【ベンチスタート向き】
- 緊張しやすいタイプ(心拍がもともと高い)
→ 試合開始前からドキドキ状態で、アップのやりすぎは逆効果。
→ 試合開始直後の空気が落ち着いてきたタイミングでの投入がベスト。 - 安定型・判断力タイプ(スキルで流れを読む選手)
→ パワーやスピードよりも、試合のリズムをつかむ力が強み。
→落ち着いたプレーがチームに安心感をもたらす効果が期待できるかもしれない。
「心拍が上がる=良いこと」だけではない
心拍数の増加がもたらすメリットについては前述しましたが、
上がりすぎた状態―つまり過度な緊張で身体がガチガチになっているとき―は、当然パフォーマンスが下がります。
特に大事な試合や強豪相手の試合では、
「いつも通り動けない」「体が重く感じる」「頭が真っ白になる」
といった“緊張の副作用”で、筋肉がこわばり、動作がぎこちなくなります。
つまり、心拍を上げることは大事でも、上がりすぎは逆効果。
そんな「緊張との上手な付き合い方」を知りたい方には、
精神科医・作家の樺沢紫苑(かばさわしおん)先生による
📘『いい緊張は能力を2倍にする』(フォレスト出版, 2019)がおすすめです。
この本では、
「緊張=悪いこと」ではなく、「いい緊張を味方に変える」ための脳科学的アプローチの方法を学べます。
ミニバスの選手だけでなく、保護者やコーチにもぜひ読んでほしい一冊です。
緊張を“敵”ではなく“味方”に変えられるようになると、
心拍もプレーも、自分でコントロールできるようになります。
まとめ: 研究はヒント、“絶対の答え”ではない
ここまで紹介した研究や考察は、
多くの選手に当てはまる「科学的な傾向」を示しています。
しかし、バスケットボールは数字だけでは測れません。
たとえば、「緊張しやすい子だから2Qスタートにしよう」と決めても、
ベンチで待つ間にどんどん緊張が高まり、
いざ出たら体がガチガチ……というケースもあります。
逆に、静かなタイプの子が試合開始と同時に一気に集中することもあります。
だからこそ、研究結果は“正解”ではなく“ヒント”。
データを踏まえつつ、
「この子はどんなときに一番輝くか?」を日々観察することが、
本当に良いコーチングにつながります。
科学でチームを理解し、経験で選手を支える。
その両方をバランスよく取り入れることが、
子どもたちが自分らしく力を発揮できるチームづくりの第一歩です。




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