試合の第4クォーター。
あと少しで逆転できる――はずなのに、足が止まる。
ベンチで見ていて「もっと走れ!」と思っても、選手の体が動かない。
そんな光景を何度も見てきたコーチ・保護者の方も多いのではないでしょうか。
「体力がないのか?」「練習が足りないのか?」「あのチームはあんなに走れるのに・・」
そう思って走り込みを増やしても、疲労が溜まってケガにつながることも。
でも、もし、「量」を増やさずに、最後まで走り切る力を伸ばせるとしたら?
最新のスポーツ科学がその答えを示しています。
それが、デンマーク発の研究「Speed Endurance Training(SET)」です。
この記事では、
トレーニング研究の結果から効果がある事が証明された「走り負けないチーム」を作るトレーニング方法を、わかりやすく解説します。
持久力のカギは最大酸素摂取量(VO₂max)
一般的に持久力のある選手は最大酸素摂取量(VO₂max)が高いと言われます。
VO₂maxが高い人ほど酸素をたくさん運んで使えるため、
バスケのように試合中ずっと動き続けるスポーツでも、後半までスピードを落とさずに動けます。
逆に、VO₂maxが低いと酸素が足りず、乳酸がたまりやすくなり、
脚が重くなったり、息が苦しくなったりします。
VO₂maxの基本的な定義
最大酸素摂取量(VO₂max:Maximum Oxygen Uptake)とは、体が1分間に取り込んで利用できる酸素の最大量を示す指標です。単位は「mL/kg/min」(体重1kgあたり1分間に取り込める酸素の量)で表されます。
VO₂maxは、主に以下の3つの要素によって決まります:
- 心臓のポンプ機能(心拍出量):1分間にどれだけの血液を送り出せるか。

- 血液の酸素運搬能力:赤血球中のヘモグロビンがどれだけ効率よく酸素を運べるか。

- 筋肉の酸素利用効率:筋細胞がどれだけ酸素を取り込み、エネルギー(ATP)を生み出せるか。

これらが総合的に働くことで、運動中の酸素供給能力が決まり、その上限がVO₂maxとなります。
「走れるかどうかのカギ」は、心肺がどれだけ酸素を使えるか=VO₂maxにあるわけです。
VO₂maxの意味と重要性
VO₂maxは「持久力の指標」として最も広く用いられています。
高いVO₂maxを持つ選手ほど、長時間にわたり高い運動強度を維持できます。
例:スポーツ別の平均値
| 種目 | 男性の平均 | 女性の平均 |
|---|---|---|
| 一般成人 | 35〜45 mL/kg/min | 30〜40 mL/kg/min |
| サッカー・バスケットボール選手 | 55〜65 | 45〜55 |
| 長距離ランナー・自転車競技選手 | 70〜85 | 60〜75 |
高いVO₂maxは「有酸素的にエネルギーを生産できる力」が強いことを意味し、持久力・疲労回復力・試合後半のパフォーマンスに直結します。
VO₂maxを高めるトレーニングは走り込み?
VO₂maxは遺伝的要素に左右される部分もありますが、トレーニングによって20〜30%向上可能です。代表的な方法は
・走り込み
・有酸素高強度インターバルトレーニング(HIIT)
などが代表的です。
多くのチームでは、走れない=練習量を増やす方向に行きがちです。
ですが、練習量を増やしすぎると疲労が溜まり、けがをするリスクが高まります。
ある研究によると、
週あたりの専門競技の練習時間>年齢
になるとけがのリスクが増えるそうです。
↓↓(詳しく確認したい方は以下のリンクから)
>>【ミニバス】これって練習のしすぎ?頻度はどれくらいが適切?対策は?

「身長がないチームだから相、手に走り負けないチームを目指したい。」
「ライバルのあの選手は後半でギアを上げてくるから最後までついていけるようにしたい。」
「でも練習しすぎてけがしたら元もこもない・・・・」
そんな葛藤の中練習しているコーチ・選手は非常にたくさんいるのではないでしょうか?
そんな中、その悩みを科学的に解決してくれる論文が発表されました。
それが、デンマーク・コペンハーゲン大学のBangsbo(バングスボー)教授らによる「Speed Endurance Training(SET)」に関する研究です。
この研究では、プロアスリートから学生アスリートまで幅広い競技者を対象に、
「練習量を減らしても、短時間・高強度のトレーニングでパフォーマンスを上げられるか?」を検証しました。
結果は・・・
💡 SET(スピード持久力トレーニング)を行う事で、VO₂max(最大酸素摂取量)が変化しなくても、試合での走力・スプリント能力・回復力が大幅に向上する。
つまり、練習の「量」を増やさ事なく、“走れるチーム”はつくれる。
このSET(スピード持久力トレーニング)は、
いわば「短時間で走力を底上げするトレーニング」。
- 練習時間が限られているチーム
- けがを避けながら運動量を確保したいコーチ
- 後半に強い選手を育てたい指導者
そんな現場にこそぴったりのアプローチです。
この記事を読む事で、長時間の練習によるVO₂maxの向上に依存せず、体力・走力をつける方法を知る事が出来ます。
VO₂maxが変わらなくてもパフォーマンスupする方法を示した論文
タイトル:
スピード持久力トレーニングによるパフォーマンス向上
(Speed Endurance Training to Improve Performance)
著者:
Jens Bangsbo, Julie Kissow, Morten Hostrup
(コペンハーゲン大学 栄養・運動・スポーツ学部)
原文を確認したい方は以下のサイトから
↓↓
peed Endurance Training to Improve Performance
要約
多くのスポーツにおいて、身体的な要素は競技成績を左右する重要な要因である。
本総説は、最大酸素摂取量(VO₂max)を上回る強度で行う**スピード持久力トレーニング(SET)**の効果を、様々な競技・持続時間(20–60秒、1–10分、10–60分、繰り返しの高強度運動など)にわたって検討している。
対象はトレーニングを積んだ被験者やアスリートのみとした。
SET単独、あるいは有酸素トレーニングや筋力トレーニングと組み合わせた場合の効果を比較したところ、トレーニング量を大幅に減らしてもパフォーマンスが向上することが示された。
この改善はVO₂maxの上昇を伴わず、むしろ運動効率の改善や**筋内イオン変化への耐性向上(pH低下への対応能力)**に関連していた。
したがって、SETは単独でも、他のトレーニングと併用しても有益な期間的導入が可能である。
全文確認したい方はこちらをクリック
以下は研究の全文を翻訳したものです。
第1章 導入(Introduction)
- オリンピックの陸上競技を例に挙げ、トップ選手の差が0.3〜0.7秒ほどの僅差である。
- そのため、「わずかなパフォーマンス向上」がメダルを左右する。
- SETはVO₂maxを超える強度(主に無酸素エネルギー供給に依存)で行うインターバルトレーニング。
- トレーニングの種類:
- SET-P(Production): 10〜40秒の短い全力運動、長い休息(例:30秒×数回+3分休息)
- SET-M(Maintenance): 5〜120秒のやや長い運動、短い休息(例:1分×数回+1分休息)
→ SET-Pはパワー向上、SET-Mは疲労耐性向上を目的とする。
第2章 短時間イベント(20〜60秒)
対象:
200m走・400m走・スピードスケート・自転車タイムトライアル・バスケットボールなど。
主な結果
- SETを単独で行った場合でもパフォーマンスが2〜7%向上。
- トレーニング量は通常より60%程度少なくても効果あり。
- 筋内では以下のような変化が報告:
- Na⁺/K⁺ポンプのサブユニット増加
- Na⁺/H⁺交換体(NHE1)活性上昇
- 解糖系酵素PFKの増加
解釈
これらの変化により、筋細胞膜のイオンバランス保持能力が高まり、pH低下に強くなることがパフォーマンス向上の一因とされている。
第3章 中距離イベント(1〜10分)
対象:
800m・1500m走、2000mボート競技、4分間サイクルタイムトライアルなど。
主な結果
- SET単独でも20〜30%の持続パフォーマンス向上。
- VO₂maxに変化はないが、ランニングエコノミー(走行効率)が改善。
- 筋内では以下の変化:
- MCT1(乳酸輸送体)増加
- NHE1およびNa⁺/K⁺ポンプの増加
- PFK活性上昇
他の併用トレーニングとの比較
- SET+有酸素高強度トレーニング(4×4minなど) → パフォーマンス+36%、Na⁺/K⁺ポンプα2増加(+68%)
- SET+筋力トレーニング → 1500m走で+5%、NHE1上昇(+35%)
第4章 長時間イベント(10〜60分以上)
(本文後半に詳細)
- VO₂maxが飽和しても、SET導入により運動経済性・疲労耐性が改善。
- 5000m〜マラソンレベルでも2〜3%の記録向上例あり。
- 筋酸化酵素活性やカルシウム取り込み能(SERCA)が適度に上昇。
チームスポーツ(バスケットボール・サッカーなど)
- Yo-Yoテストや**繰り返しスプリント能力(RSA)**が向上。
- 5週間のSETで、サッカー選手はYo-Yoテスト+11%、血中乳酸−17%減少。
- バスケットボールでも同様に、疲労耐性と敏捷性が改善。
結論(Conclusion)
- SET(スピード持久力トレーニング)は、全体のトレーニング量を減らしてもパフォーマンスを高められる。
- VO₂maxを変化させずに、「筋内環境の耐性」や「イオン輸送能力」を強化。
- 短距離〜長距離、球技を含む多様な競技で有効。
- トレーニング周期の中にSET期を戦略的に挿入することで効果的。
論文の内容まとめ
論文の内容を簡単にまとめると、SET(スピード持久力トレーニング)を行うと以下のような身体の変化が起こります。
「疲れにくい筋肉」に変わる
全力で動くと、筋肉の中に“乳酸”がたまって重くなります。
SETを続けると、筋肉が乳酸を処理してエネルギーに変える力が強くなります。
その結果、試合の終盤でも脚が止まりにくくなります。
試合の後半に「もう一歩が出る」ようになるのは、乳酸耐性が上がっている証拠!
「速く走っても息が切れにくくなる」
SETでは、短時間で筋肉に強い酸素ストレス(酸欠状態)を与えます。
すると、筋肉が「どうすれば限られた酸素で動けるか」を学習し、
以下のような変化が起きます
- 酸素を使う酵素(PFKなど)の活性化
- 筋内のイオンバランス調整(Na⁺–K⁺ポンプ、NHE1増加)
- ミトコンドリアの酸素利用効率改善
- 乳酸を再利用する力(MCT1増加)
つまりSETを行う事で、酸素を「増やす」より「無駄なく使う」能力が向上します。
同じスピードで走っても、息が上がりにくくなる=エネルギーの無駄が減る。
「スプリント後の回復が速くなる」
バスケでは、ダッシュ→止まる→またダッシュ…の繰り返し。
SETはまさにこの「短時間全力→休む→また全力」という流れを再現しています。
よって、スプリント後の心拍数の戻り(リカバリー能力)が大きく改善します。
試合中、“速く走ってもすぐ次のプレーに入れる”ようになります。
| 向上する能力 | 試合での効果 | |
|---|---|---|
| 疲労耐性 | 乳酸を処理する力 | 後半でも脚が止まらない |
| 酸素効率 | 酸素の使い方が上手くなる | 息が上がりにくい |
| 回復力 | スプリント後の心拍数回復 | 速攻→守備の切り替えが速くなる |
HITとSETの違いは?
ここまでトレーニングに関するお話をして、こんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
「短時間で高強度の負荷をかけるのはHIIT(高強度インターバルトレーニング)って聞いた事があるけど・・・それのこと?」
そんな疑問を持たれた方はすごくよく勉強している方です。
SETとHIITは非常に似ていますが、若干違います。
以下が両者の違いです。
| 項目 | HIIT(高強度インターバルトレーニング) | SET(スピード持久力トレーニング) |
|---|
| 主目的 | VO₂max(心肺能力)を上げる | 筋内代謝・酸素利用効率を高める |
| 強度 | 85〜95%最大心拍 | ほぼ全力(100%+α) |
| 運動時間 | 1〜4分 × 数セット | 20〜40秒 × 6〜10本 |
| 休息 | 1〜3分 | 3〜4分(完全回復) |
| 効果 | 心肺機能向上 | 疲労耐性・スプリント維持力向上 |
🔹 HIT(High-Intensity Interval Training)
目的:「心臓と肺を鍛える」
- 心拍数を最大心拍の90〜95%付近に維持。
- 例:「4分走 × 4本、休憩3分」(いわゆる“ノルウェーモデル”)
- 主に 有酸素能力(VO₂max)と心拍出量(stroke volume) が向上。
- トップランナーや持久系アスリートの「心肺の上限値」を引き上げる。
🔹 SET(Speed Endurance Training)
目的:「筋肉を酸素効率よく使えるようにする」
- 30秒前後の全力スプリント(180%VO₂max強度)。
- 休憩を長く取り(3〜4分)、毎回ほぼ最大努力を維持。
- 主に 筋細胞内の代謝適応 が起きる:
- Na⁺–K⁺ポンプ・NHE1増加 → 疲労耐性UP
- PFK活性↑ → 短時間でATPを効率的に産生
- FXYD1リン酸化↑ → 筋内イオンバランス改善
筆者の考察
論文(Bangsbo et al., 2025)でも示されているように、SETは「短時間・高強度・十分な休息」がポイントです。
走り込みのように長く続ける必要はなく、1回30〜45分、週2〜3回でOK。
以下から筆者が考える具体具体的な実施例をご紹介します。
バスケットコート
①コートを使って「エンドライン→エンドライン」全力走(約25〜30秒)
②1本走ったら3分歩いて回復
③6〜8本で終了

→練習の一環として実施可能。バッシュを履いて行うため実用的。
坂ダッシュ(Hill Sprint)
①20〜30秒で登れる緩やかな坂を全力で駆け上がる
②下りは歩いてゆっくり戻る(2〜3分休憩)
③6〜8本実施

→太もも・お尻・ふくらはぎまで一気に鍛えられる。
バーピー+スプリント(複合型SET)
①バーピー10回→5mダッシュ→戻るを20秒間繰り返す
②3分休憩
③5〜6セット実施

→ 全身の瞬発力+心肺負荷+乳酸耐性を一度に刺激。
エアロバイクSET(バイクスプリント)
①30秒全力ペダル
②3分ゆっくり
③6〜8本実施

負荷は「立ち漕ぎできるギリギリ」くらい
→ 筋の酸素効率と回復力を同時に改善。
負荷量・回転数・時間を調節する事で、HITTトレーニングとしてVO₂max向上も狙える。
おすすめの家庭用バイクは静音設計の以下のようなものです
↓↓
階段ダッシュ(Stair Sprint)
①公園や学校の階段を20秒間全力で駆け上がる
②下りは完全に歩いて心拍を落とす(3分休憩)
③5〜7本実施

→坂道同様、 太もも・お尻・ふくらはぎまで一気に鍛えられる。
学校の階段など、体育館を使えない日も実施可能。
短時間とはいえ、SETは高強度なトレーニングです。
トレーニングにより疲労した筋肉を回復させるためには、適切な糖質とタンパク質摂取が欠かせません。
食事で十分な量を補えていれば問題ありませんが、タンパク質は摂取するのが意外と難しく不足しがち。
そんな方にはプロティンの摂取をおすすめします。
以下のような商品は無添加で子供でも摂取できます。(美味しくはありませんが・・・・)
↓↓
「疲れた体が、明日もう一度動けるように」
それがプロテインの本当の役割です。
また、十分なタンパク質補給は、身長を伸ばすことにもつながるためおすすめです。
まとめ
バスケットボールは、“長く走る力”よりも“繰り返し全力で動き続ける力(スピード持久力)”が勝敗を分けるスポーツです。
その力を効率よく鍛えられるのが、最新研究で注目されている SET(Speed Endurance Training)=スピード持久力トレーニング です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トレーニング目的 | 酸素を効率よく使い、疲れにくい筋肉を作る |
| 効果 | VO₂maxが変わらなくてもスプリント力・回復力・持久力が向上 |
| 方法 | 20〜30秒の全力運動 × 6〜8本(休憩3〜4分) |
| 頻度 | 週2〜3回、1回30〜45分でOK |
| 実施場所 | コート・公園・坂道・階段・家の中でも可能 |
| 補足 | トレーニング後は糖質+タンパク質で回復をサポート |
| 能力 | 改善ポイント | 試合での効果 |
|---|---|---|
| 疲労耐性 | 乳酸を処理してエネルギーに変える力 | 後半でも脚が止まらない |
| 酸素効率 | 筋肉が酸素を無駄なく使う力 | 息が上がりにくくなる |
| 回復力 | スプリント後の心拍数・呼吸の戻り | 速攻→守備の切り替えが速くなる |
- SET … 筋肉の酸素利用効率を高める(疲れにくい体に)
- HIIT … VO₂maxを高める(心肺機能を強化)
- プロテイン+糖質補給 … トレーニング効果を最大化し、翌日の疲労を残さない
走り負けないチーム」を作るカギは、“練習量”だけではありません。
科学的に正しい方法で、少ない時間でも成果を出すチームづくりを始めましょう。


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