【スポーツで起こる脳震盪とは?】症状とチェック方法

救急対応

脳震盪が”死亡事故”にもつながる??

バスケットはコンタクトスポーツであるため、様々な外傷が発生します。

その中でも、バスケットにおける最も怖い外傷とはなんでしょうか?

試合中に最も高頻度に発生する足関節の捻挫でしょうか?

手術や長期間のスポーツ休止を余儀なくされる前十字損傷やアキレス腱断裂でしょうか?

もちろんこれらの外傷は絶対に防ぎたいもので、多くのチームが予防に取り組んでいると思います。

しかし、頻度が少ない故に軽視されがちな外傷が「脳震盪」です。

その理由はシンプルで、正しく対処しないと死亡事故につながる可能性があるためです。

脳震盪の知識は、選手の起用に関して権限のある監督・コーチの方には絶対に知っておいてほしい知識です。

今回の記事でわかること

・脳震盪とは何か?脳震盪がなぜ死亡事故につながる可能性があるのか?

・脳震盪が起きた場合の評価・対処方法

・脳震盪から競技復帰までの流れ

脳震盪とは

脳震盪とは頭部への直接的、又は間接的な外力により様々な症状が発生した状態で、脳の器質的病変を伴わない一時的な機能障害とされています。

脳震盪の怖さ”セカンドインパクト症候群”

脳震盪の最も怖いのがセカンドインパクト症状群です。

セカンドインパクト症候群とは

1回目の脳振盪の後、1か月以内に2回目の頭部外傷を受け、重篤な状態におちいるものを言います。初回の打撲により脳に軽微な出血や腫れが生じている状況では、その後に続く頭部打撲がたとえ軽微であっても、重篤な脳損傷を生じる可能性が推定されています。セカンドインパクト症候群の死亡率はなんと30~50%と高く、生存しても何らかの脳の後遺症を残すと言われています。

脳震盪の症状

上述したセカンドインパクト症候群を絶対に防ぐためにも脳震盪の症状を見逃してはいせません。

選手が練習・試合中に頭部に衝撃を受けた場合は以下の脳震盪の症状が発生していないかを確認して下さい。

・意識消失

・頭痛

・めまい

・吐き気

・耳なり

・記憶消失

・呂律が回らない

・落ち着きがなくなる

頭部に外傷を受けた際の処置

頭部に外傷を受けた場合、初めに意識があるかどうかを確認して下さい。

意識の確認の仕方は下の表のように確認します。

A:alert覚醒意識障害(なし)
V:vocal stimuli呼びかけで反応あり意識障害(あり)
P:painful stimuli痛み刺激で反応あり意識障害(あり)
U:unresponsive反応なし意識障害(あり)

参考文献:中山晴雄.臨床スポーツ医学 スポーツ頭部外傷の診断と治療.2019.文光堂

自力で起き上がらない場合

①近くで様子を観察し意識があるかを確認します。意識があれば上述した「A」の状態です。

②意識がない場合は声をかけて意識が戻るかを確認します。これで反応あれば上述した「V」の状態です。

③声をかけても反応がない場合は腕をつねるなどして痛みの刺激を与えて反応を確認します。これで反応あれば上述した「P」の状態です。これでも反応がなければ上述した「U」の状態です。

A以外の状態が倒れてから1分以上続く場合、直ちに救急車を要請を要請して下さい。この場合、脳の重篤な損傷の可能性があります。絶対に無理に起こそうとしたり、体を揺すったりしてはいけません。

※重篤な損傷とは急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷などが挙げられます。

⑤上述した「A」の状態だが、自ら起き上がれない場合、頸髄損傷などの重度な外傷の可能性があります。間違ってもプレーを再開するために無理やりコート外に出すような事はしてはいけません。直ちに救急車を要請して下さい。

1分以内に自力で起き上がった場合

①ごく短時間でも意識消失があったかを本人に確認して下さい。

②意識消失があった、もしくは「わからない」と返答する場合、一度交代し、コートサイドで以下の評価を受けます。「ない」と答えた場合でも痛がる以外に上述した脳震盪の症状が観察された場合も同様に対応します。

・チームドクター・トレーナーなどの医療従事者がいる場合、対象者が13歳以上の場合、以下の医療従事者向けの評価をする。

>>SCAT5

・チームドクター・トレーナーなどの医療従事者がいる場合、対象者が12歳以下の場合、以下の医療従事者向けの評価をする。

>>Child SCAT3

・現場に医療従事者がいない場合、以下の一般向者向けの評価ツールにより評価する。

>>CRT5

※以上の評価用紙は2024年9月現在、筆者が取得できたものです。以上の評価方法は度々改定される事があります、事前にご自身でも調べて頂くことをお勧めします。

③上記の評価により脳震盪が疑われた場合は、以降の試合・練習を行わない。後日(可能であれば当日)、脳外科を受診する。

※地域によりますが、土日の試合の場合、救急外来しか受付していない場合があります。救急外来ではほとんどの場合、MRIやCTなどの詳しい検査が出来ず、後日、脳外科を受診するよう促されます。

脳震盪が疑われた日の注意点

①選手を一人きりにさせない

脳震盪後はいつ症状が再発・悪化するかわかりません。当日は急変した際にすぐに気づけるように一人になる事のないよう配慮する必要があります。

②自動車・自転車の運転は控える

上述した理由と同様、運転中に症状が悪化すると重大な事故につながる可能性があります。

③軽運動でもしない

受傷当日は症状が改善しても軽運動もしてはいけません。復帰にあたっては後述する復帰プロトコルに沿って復帰するように心がけて下さい。

バスケットにおいて脳震盪が発生しやすいタイミング

筆者の主観的な内容になりますが、バスケットにおいて脳震盪が発生しやすいタイミングをご紹介します。

①テイクチャージの際

テイクチャージのために止まった状態で相手から接触を受けて倒れた際は、特に注意して選手の様子を観察して下さい。

オフェンスがは前のめりに倒れる事が多いため、反射的に手で受身をとる事が多い一方、ディフェンス(テイクチャージが特に)の際は背中から倒れる場面があります。

この際、受身は取れないため頭部を床に打ち付ける事があります。

②ルーズボール、ドライブの瞬間に頭同士で接触した時

頭部は頭蓋骨という「骨」であるため、筋肉や脂肪などの軟部組織に比べ硬い組織です。

ルーズボール、ドライブなどの際、勢いよく頭同士が接触すると、骨同士の接触のため大きな衝撃が発生する可能性があります。

③頭部をぶつけた際、ベンチまで聞こえる音がした時

筆者の経験上、大きな会場や、すごい歓声に包まれていない限り、脳震盪を起こすインパクが発生した際は、「ゴン!」と鈍い音がします。音を聞いた後は必ず選手の状態を確認する事をお勧めします。

脳震盪後の復帰プロトコル

脳震盪後はいくら症状がなくても以下の復帰プロトコルに沿って段階的に復帰する事をお勧めします。

Stageねらい(活動内容)
Stage1症状が誘発されない日常生活活動
Stage2軽度な有酸素運動
低:中程度のペースで行われるウォーキングやエアロバイク
Stage3頭部への衝撃のないスポーツ特異的な運動
Stage4身体接触のないトレーニングドリル
Stage5フルコンタクト練習
Stage6スポーツへの完全復帰

※Stage1の前に24〜48時間の身体的及び認知的休息を行う。

上記stageの間には最短24時間を設け、症状の増悪がない事を確認して進める。症状の増悪がある場合はステージを戻した上で再開する。

参考文献:中山晴雄.臨床スポーツ医学 スポーツ頭部外傷の診断と治療.2019.文光堂

まとめ

コンタクトスポーツにおいて発生する脳震盪についてお伝えしました。

バスケットにおける脳震盪はラグビーやアメリカンフットボールなどの競技に比べると発生頻度は比較的低いです。

そのため、指導者・選手・保護者の脳震盪に対する危険への認知度はあまり高くないのが現状です。

その現状を危惧してか、Bリーグからも脳震盪に対する対策について述べられた記事が発表さておりました。

>>BリーグSCS推進チーム・中山晴雄氏が進める脳振盪対策「どう対応すればいいのかを根付かせたい」

チームの指導者は競技のスキルや体力を向上させる役割を担うと共に、選手の安全を確保する事が必須です。選手の生命に関わる脳震盪の知識は選手の起用の権限を持つ指導者は必ず持っておきたい知識の一つです。

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